公共工事の受注を目指す建設業者にとって、「経営事項審査(経審)」の点数は極めて重要な指標です。長野県茅野市でも、
- 「経審の点数を上げるにはどうすればよいのか」
- 「財務状況をどう改善すればよいのか」
といったご相談をいただくことが増えています。
特に中小企業では、経審の評価項目やその仕組みが分かりづらく、「どこから手をつければよいか分からない」という声も多く聞かれます。
この記事では、茅野市の建設業者の実情を意識しながら、経営事項審査の正確な仕組みと点数向上のポイントについて、行政書士の専門的な視点から分かりやすく解説します。経審対策に不安をお持ちの事業者様は、ぜひ参考にしてください。
経営事項審査(経審)とは?
茅野市の建設業者が知るべき基礎知識
経営事項審査の目的と必要性
経営事項審査(経審)は、建設業法に基づき、国土交通大臣または都道府県知事が、
- 経営規模
- 施工能力
- 財務内容
- 技術力
- 社会性・法令遵守状況
などについて審査を行う制度です。
公共工事を直接請け負おうとする建設業者は、契約締結日の1年7か月前以降の決算日を基準日とする経営事項審査を受け、その結果通知書(総合評定値 P点)の交付を受けていることが必要とされています。
長野県茅野市を含む諏訪地域では、地元の公共工事の需要が比較的安定している一方、限られた業者同士での入札競争が激しくなりやすいという特徴があります。そのため、経審の点数がわずかに高いだけでも、受注機会に大きな差がつくことがあります。
経審を受けることのメリット
経審は「入札のために仕方なく受けるもの」と思われがちですが、本来は次のようなメリットがあります。
- 公共工事の入札参加資格を得られる
- 客観的な企業評価により、発注者や取引先からの信頼性が向上する
- 金融機関からの評価が高まり、資金調達の際にもプラスになる
- 自社の経営状況を客観的な指標で把握できる
- 財務改善や経営改善の「具体的な目標値」として活用できる
「経審対策=点数合わせ」ではなく、経営そのものを良くするツールとして捉えることが大切です。
経営事項審査の評価項目を正しく理解する
経営事項審査では、次の4つの項目について評価を行い、業種ごとに総合評定値(P点)を算出します。
評価項目の構成(X・Y・Z・W)
| 区分 | 審査項目 | 最高点/最低点 | ウェイト |
|---|---|---|---|
| X1 | 経営規模:工事種類別年間平均完成工事高 | 2,309点/397点 | 0.25 |
| X2 | 経営規模:自己資本額・利益額 | 2,280点/454点 | 0.15 |
| Y | 経営状況:8つの財務指標 | 1,595点/0点 | 0.20 |
| Z | 技術力:技術職員数・元請完成工事高 | 2,441点/456点 | 0.25 |
| W | 社会性等:労働福祉・法令遵守など | 1,966点/−1,995点 | 0.15 |
※W評点(社会性等)は、社会保険未加入や重大な法令違反がある場合などにマイナスとなり、そのマイナス分がそのままP点に反映される仕組みです。
昔の制度では「0点で打ち止め」でしたが、現在はボトムが撤廃されている点に注意が必要です。
総合評定値(P点)の計算式
総合評定値(P)は、次の式で算出されます。
P 点= 0.25×X1 + 0.15×X2 + 0.20×Y + 0.25×Z + 0.15×W
それぞれの項目がバランスよく影響する設計になっており、どれか一つだけを極端に伸ばせばよい、というものではありません。
特に中小建設業者の場合は、「X1・X2(規模)」だけでなく、Y(財務)・W(社会性)を地道に整えることが、長期的な点数アップにつながります。
Y評点(経営状況分析)の8つの財務指標を徹底解説
Y評点(経営状況)は、企業の財務の健全性を評価する重要な項目です。以下の8つの財務指標から算出されます。
【1】負債抵抗力
① 純支払利息比率
(支払利息 - 受取利息・配当金) ÷ 売上高 × 100
- 低いほど良い指標
- 上限値(最も良い評価):−0.3%
- 下限値(最も悪い評価):5.1%
金利負担が重くなると数値が悪化し、評価も下がります。
② 負債回転期間
(流動負債 + 固定負債) ÷(売上高 ÷ 12)
- 低いほど良い指標
- 上限値:0.9か月
- 下限値:18.0か月
借入金や買掛金が売上に対して多すぎると、資金繰りリスクが高いと判断されます。
【2】収益性・効率性
③ 総資本売上総利益率
売上総利益 ÷ 総資本(2期平均)× 100
- 高いほど良い指標
- 上限値:63.6%
- 下限値:6.5%
持っている資本をどれだけ効率よく利益(粗利)に変えているかを見る指標です。
④ 売上高経常利益率
経常利益 ÷ 売上高 × 100
- 高いほど良い指標
- 上限値:5.1%
- 下限値:−8.5%
本業の収益力を示す、非常に重要な指標です。
【3】財務健全性
⑤ 自己資本対固定資産比率
自己資本 ÷ 固定資産 × 100
- 高いほど良い指標
- 上限値:350.0%
- 下限値:−76.5%
「自分のお金でどれだけ固定資産を賄っているか」を見る指標で、過度な設備投資や遊休資産が多い場合に悪化します。
⑥ 自己資本比率
自己資本 ÷ 総資本 × 100
- 高いほど良い指標
- 上限値:68.5%
- 下限値:−68.6%
会社の安全性を示す代表的な指標です。金融機関も必ずチェックします。
【4】絶対的力量
⑦ 営業キャッシュフロー
経常利益 + 減価償却実施額 − 法人税等 ± 各種調整額
- 高いほど良い指標
- 上限値:15.0億円
- 下限値:−10.0億円
「利益は出ているが、お金が残っていない」という状態を避けるための重要な視点です。
⑧ 利益剰余金
貸借対照表の利益剰余金
- 高いほど良い指標
- 上限値:100.0億円
- 下限値:−3.0億円
過去から積み上げてきた利益の蓄積です。赤字決算が続くとマイナスとなり、評価も下がります。
財務管理が経審に与える影響
茅野市での具体的なケース(想定)
ここでは、茅野市に所在する中小建設業者「株式会社ちのちの建設(仮名)」を想定して考えてみます。
同社は長年安定した経営を続けてきましたが、直近では資材高騰や人件費の上昇により利益率が低下。経審のY評点やX2評点にも悪影響が出始めています。
財務状況が経審に影響する主なポイント
1. 利益額の管理
経費の見直しや原価管理の徹底により利益額を確保することで、
- X2評点(自己資本額・利払前税引前償却前利益)
- Y評点の「売上高経常利益率」
- Y評点の「営業キャッシュフロー」
といった項目を**同時に底上げすることができます。
2. 借入金の適正化
過度な借入は、次のように財務指標を悪化させます。
- 純支払利息比率の上昇(利息負担の増加)
- 負債回転期間の悪化(借入依存度の増加)
- 自己資本比率の低下(財務の安全性の低下)
「借りないこと」だけが正解ではありませんが、返済計画を含めた“適正な水準”の借入にコントロールすることが重要です。
3. 固定資産の管理
使っていない車両・機械・土地などの固定資産を抱え過ぎていると、
- 自己資本対固定資産比率の悪化
- 総資本の効率低下
につながります。不要資産の売却やリース活用を検討することで、指標の改善が期待できます。
行政書士としての支援のポイント
このようなケースでは、行政書士として次のような支援を行います。
- 決算書・内訳書の内容確認と、経審に適した表示のチェック
- 各財務指標(8指標)のシミュレーションと改善余地の分析
- 中長期的な経営計画・投資計画の策定サポート
- 税理士・社労士と連携した総合的なアドバイス
「点数のため」ではなく、「経営を良くするほど点数も上がる」状態を作ることが理想です。
経審点数を向上させるための実践的対策
X評点(経営規模)の向上策
【X1:完成工事高】
- 工事経歴書の正確な記載(抜け漏れ・誤分類を防ぐ)
- 業種区分の適切な振り分け(とび・土工、舗装、造園など)
- 公共元請工事の積極的な受注(元請完成工事高はZにも影響)
【X2:自己資本・利益額】
- 安定した利益の確保(赤字決算を避ける)
- 内部留保の充実(利益剰余金を少しずつ積み上げる)
- 不良債権・滞留債権の整理(貸倒れリスクの低減)
Y評点(経営状況)の向上策
短期的に取り組みやすい対策
- 短期借入金の一部返済・長期化の検討
- 受取利息・配当金の計上漏れの確認
- 不要な固定資産の売却・リースへの切り替え
- 売掛金の早期回収(回収サイトの短縮)
- 在庫(材料)の適正水準への見直し
中長期的な対策
- 自己資本比率を高める(利益の内部留保を優先)
- 安定した収益構造の構築(元請・下請のバランス見直し等)
- キャッシュフロー経営の徹底(月次資金繰り表の作成など)
Z評点(技術力)の向上策
- 技術職員の計画的な採用・育成
- 1級・2級施工管理技士など有資格者の資格取得支援
- 元請工事の受注拡大(元請完成工事高の増加)
- 技術者台帳・名簿の整備と、資格更新の管理
W評点(社会性等)の向上策
W評点は、近年の改正によりマイナス評価がそのままP点に響く重要な項目となりました。
- 社会保険(健康保険・厚生年金・雇用保険)の完全加入
- 建設業退職金共済(建退共)への加入・掛金の適正な納付
- 防災協定の締結・地域貢献活動への参加
- 労働基準法・建設業法などの法令遵守体制の整備
- 建設業経理士・建設業経理事務士(登録経理試験合格者)の配置
- 若年技術者・技能者の雇用と育成
「社会保険未加入」や「法令違反」は、罰則だけでなく経審の点数にもダブルでマイナスとなる時代です。最低限の法令遵守を徹底した上で、プラス加点を積み上げていきましょう。
長野県茅野市で経審対策に取り組む際の重要ポイント
地域特性を理解する
茅野市を中心とする諏訪地域には、次のような特徴があります。
- 都市部に比べて企業数が限られており、顔の見える業界構造
- 地元の公共工事の需要は比較的安定している
- その分、特定業者間での入札競争が激しくなりがち
- わずかなP点の差が、等級や受注機会を左右するケースもある
「うちくらいの規模ならこんなものだろう」と思わず、自社のP点が地域内でどの位置にいるのかを一度確認してみると、具体的な目標が見えやすくなります。
継続的な改善が重要
経審の点数は、一夜にして大幅に変わるものではありません。
改善の基本サイクルは、
- 現状の点数・各項目(X・Y・Z・W)を正確に把握する
- 改善可能な項目を洗い出す
- 優先順位をつけて対策を実行する
- 次回審査で効果を検証する
- 結果を踏まえて、さらに改善策を検討する
という「PDCA」の繰り返しです。
税務と経審のバランスに注意
節税対策と経審評価は、必ずしも同じ方向を向いているとは限りません。
- 節税のために経費を増やす
→ 利益額が減少 → Y評点・X2評点が低下 - 節税のために借入を増やす
→ 負債が増加 → 各財務指標が悪化
税務上はメリットがあっても、経審上はマイナスになるケースもあります。
そのため、
- 税理士と行政書士の連携
- 中長期的な視点での利益・借入・投資のバランス
- 決算前の段階でのシミュレーション
が重要になります。「税務だけ」「経審だけ」ではなく、両面のバランスを取る意思決定が求められます。
行政書士によく寄せられる質問とその回答(Q&A)
Q1. 経審の点数はどのくらいを目指せば良いですか?
A. 制度設計上、各評点やP点は平均がおおむね700点前後になるように作られています。そのため、一般的な目安としては、
- 900点以上:非常に高い評価
- 800~899点:高い評価
- 700~799点:平均〜やや高め
- 700点未満:改善の余地あり
といったイメージで語られることが多いです。
ただし、実際の入札参加資格の基準点や等級区分は、発注者(国・県・市町村)ごとに異なります。
まずは「P点700点以上」を一つの目標としつつ、自社が参加したい工事の等級・基準を確認することが重要です。
Q2. 決算の内容が経審に反映されるまで、どのくらいかかりますか?
A. 一般的な流れは次の通りです。
- 決算確定(決算日から約2月)
- 登録経営状況分析機関へ「経営状況分析」の申請
- 結果通知書の交付
- 長野県へ「経営規模等評価・総合評定値」の申請
- 約1か月後に結果通知書交付
トータルで、決算日からおおむね4~6か月程度で新しい点数が反映されるイメージです。
Q3. 財務状況が一時的に悪化した場合はどうすれば良いですか?
A. 一時的な悪化であっても放置せず、
- 原因の特定(売上減なのか、原価増なのか、投資負担なのか)
- 改善計画の策定
- 次期決算での回復に向けたアクション
を検討することが大切です。
また、場合によっては、
- 補足説明資料を添付して、経営の状況を丁寧に説明する
- 中長期的な再建計画を金融機関と共有する
といった対応が求められることもあります。
Q4. 経審の点数を「短期間で」大きく上げることはできますか?
A. X・Y・Z・Wのうち、財務指標(Y評点)や自己資本額(X2)は基本的に時間がかかる領域です。一方で、比較的短期間で効果が出やすいものとしては、
- W評点の加点項目(建退共・中退共への加入など)
- 技術者の資格取得(Z評点・W評点)
- 防災協定の締結W評点)
などが挙げられます。
ただし、「一気に点を上げる裏ワザ」のようなものは存在せず、中長期での財務改善と合わせて取り組むことが前提です。
経審申請の手続きと注意点
長野県での申請方法
申請の基本的な流れ
【STEP 1】決算確定
↓
【STEP 2】登録経営状況分析機関へ「経営状況分析」を申請
↓
【STEP 3】経営状況分析結果通知書の受領
↓
【STEP 4】長野県へ「経営規模等評価・総合評定値」の申請
↓
【STEP 5】結果通知書の受領・入札参加資格申請へ活用
長野県への提出先
提出先(一般建設業):長野県庁 建設部 建設政策課 建設業担当
申請方法
- 書面による郵送申請
- 電子申請(JCIP)
結果通知日の目安
- 前月26日~当月10日受付分 → 翌月10日交付
- 前月11日~25日受付分 → 翌月25日交付
手数料(長野県の場合)
| 審査対象業種数 | 手数料 |
|---|---|
| 1業種 | 11,000円 |
| 2業種 | 13,500円 |
| 3業種 | 16,000円 |
| 5業種 | 21,000円 |
| 10業種 | 33,500円 |
経審対策における行政書士の役割
行政書士がサポートできること
- 申請書類の作成・提出代行
- 経営規模等評価申請書の作成
- 工事経歴書の作成・整理
- 技術職員名簿の作成・資格確認
- 各種確認書類(決算書・証明書類)の準備サポート
- 点数シミュレーション
- 現状の点数と各項目の分析
- 改善余地のある項目の抽出
- 将来の投資・人材採用を踏まえた点数予測
- 総合的なアドバイス
- 税理士・社労士との連携
- 経営計画・資金計画と経審の整合性チェック
- 法令遵守・コンプライアンス体制の構築支援
- 継続的なサポート
- 年次ごとの点数推移のモニタリング
- 制度改正への対応(評価項目の見直しなど)
- 入札参加資格申請・更新手続きの支援
まとめ:経審対策は「経営の見直し」のチャンス
本記事の重要ポイント
- 経審は、X(規模)・Y(財務)・Z(技術力)・W(社会性等)の4項目から構成される
- Y評点は、8つの財務指標から算出される重要な評価軸
- W評点は、現在ではマイナス評価がそのままP点に反映されるため、社会保険・法令遵守が一層重要
- 税務と経審評価は必ずしも一致しないため、両面を見据えた決算と資金計画が必要
- 点数アップは一夜で達成できないが、地道な財務改善・人材育成・コンプライアンス整備の積み重ねが必ず結果に現れる
茅野市の建設業者様へ
長野県茅野市やその周辺地域で公共工事の受注を目指す建設業者様にとって、経審の点数向上は競争力強化の要です。
経審対策は、単なる「点数稼ぎ」ではなく、
自社の経営そのものを健全で強いものにするプロセスでもあります。
- 初めて経審を受ける
- 点数が伸び悩んでいる
- 財務状況の改善方法が分からない
- 税務と経審のバランスに悩んでいる
- 申請書類の作成に不安がある
このようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、専門家にご相談ください。
行政書士へのご相談について
当事務所のサポート内容(例)
- 初回無料相談(茅野市および近隣地域を対象)
- 経審点数シミュレーション
- 経営事項審査・入札参加資格申請の書類作成代行
- 継続的な経営・財務サポート
- 税理士・社労士との連携によるワンストップ支援
対応エリア
- 長野県茅野市
- 諏訪市・岡谷市・下諏訪町
- 原村・富士見町
- その他、諏訪地域全域
経審対策でお悩みの建設業者様へ。
まずは現状の点数と財務状況を一緒に「見える化」するところから始めてみませんか。
貴社の状況に応じた、実務的で具体的なアドバイスをご提供いたします。