「いつもの下請発注が、2025年2月から違法になっているかもしれません。」そう聞いてドキッとした方は、この記事を最後まで読んでください。
2025年(令和7年)2月1日、建設業法の改正が施行されました。今回の改正では、特定建設業許可が必要となる「下請代金額」の基準が引き上げられ、特に茅野市内で元請として活動している中小建設会社にとって無視できない影響が出る可能性があります。
建設業界は今、資材高騰・人件費上昇・人手不足という“三重苦”の中にあります。そのうえで、法改正によって求められる財務体質の強化が新たな課題として浮上しているのです。
本記事では、次のポイントを徹底解説します。
✅ 令和7年2月施行の建設業法改正の具体的内容
✅ 茅野市の建設業界が直面する3つの課題
✅ 今すぐチェックすべき自社の財務状況
2025年2月は、建設業界にとって大きな節目になります。
「まだ時間がある」と思っているうちに、対応が遅れてしまう企業も少なくありません。この記事を読みながら、自社の現状を冷静に確認してみましょう。
第1章:2025年建設業法改正で何が変わる?
1-1. 改正のポイント|特定建設業許可の金額要件引き上げ
令和7年(2025年)2月1日から、建設業法の一部が改正されました。最大のポイントは、特定建設業許可が必要となる下請代金額の基準引き上げです。これにより、特定建設業の許可を要するか否かの判断ラインが変わります。以下の表をご覧ください。
項目 | 改正前 | 改正後(令和7年2月1日〜) |
---|---|---|
特定建設業許可が必要となる下請代金額 | 4,500万円(税込) | 5,000万円(税込) |
建築一式工事の場合 | 7,000万円(税込) | 8,000万円(税込) |
施工体制台帳の作成義務が生じる金額 | 4,500万円(7,000万円) | 5,000万円(8,000万円) |
これまで「4,500万円ギリギリ」で発注していた元請業者は、今後「5,000万円」が新しい境界線となります。消費税込みで判断されるため、請負金額の設定次第では知らず知らずのうちに法令違反となるリスクも。特に中小規模の元請業者は要注意です。
1-2. なぜ今、改正されるのか?
この改正の背景には、建設業を取り巻く経済環境の変化があります。
建設資材価格は過去5年間で平均30%以上上昇し、鉄骨やコンクリートなど主要資材の調達コストは大きく膨らみました。さらに、技能労働者の賃金引き上げや社会保険加入率の上昇もあり、現行の金額基準が実態に合わなくなっていたのです。
また、改正前の基準は20年以上も据え置かれていました。国土交通省は、現行制度の見直しを通じて「適正な請負契約と施工体制の確保」「下請保護の強化」を目的に、この改正を行っています。結果として、現場の透明性とコンプライアンスの重要性がさらに高まることになります。
1-3. 一般建設業と特定建設業の違い
この機会に、改めて両者の違いを整理しておきましょう。
- 一般建設業:下請代金が5,000万円(税込)未満の工事を請け負う場合に該当。
- 特定建設業:下請代金が5,000万円(税込)以上の工事を発注する場合に必要。
特定建設業を取得するためには、次の財務要件を満たす必要があります。
- 資本金:2,000万円以上
- 純資産:4,000万円以上
- 流動比率:75%以上
- 欠損額:資本金の20%以下
これらの基準は、単なる数字ではなく「会社の信用力」を示す指標です。特に公共工事や大型案件を目指す企業にとっては、財務の健全性こそが競争力になります。
1-4. あなたの会社に影響はある?簡単チェック
次の項目に1つでも当てはまる場合、今回の改正は直接影響します。
- □ 現在、一般建設業許可で営業している
- □ 元請として、下請発注額が4,500万円〜5,000万円の工事がある
- □ 今後、大型案件や公共工事の受注を検討している
もし該当するなら、早急な財務確認と体制整備が必須です。
次章では、茅野市の建設業が直面している「3つの現実」をデータで読み解きながら、なぜ今この改正対応が急務なのかを掘り下げていきます。
第2章:茅野市の建設業界が直面する3つの現実
2-1. データで見る茅野市建設業の現状
茅野市の建設業界は、地域経済の柱でありながら、ここ数十年で事業者数が大きく減少しています。
統計によると、平成8年(1996年)には約370の建設事業所が存在していましたが、令和3年(2021年)には282事業所へと減少。わずか25年で約24%減少しています。
※出典:茅野市「建設産業振興ビジョン」(経済センサス-基礎調査に基づく)
この背景には、公共工事の減少や地元企業間の競争激化、若手人材の流出などが挙げられます。地域密着型であるがゆえに、大都市圏のような大型案件に恵まれず、経営の安定化が難しいという構造的課題を抱えているのです。
一方で、茅野市はリゾート開発や移住促進が進む地域でもあり、住宅リフォームや公共施設の改修工事など、新たなニーズも生まれつつあります。つまり、地域需要の変化を正確に捉え、柔軟に対応できる企業が生き残る時代に入っているのです。
2-2. 深刻化する高齢化問題
建設業界全体に共通する課題ですが、茅野市でも職人の高齢化が急速に進んでいます。
国勢調査や市の産業データを見ても、20代・30代の若手従事者の割合は全国平均よりも低く、50代・60代が中心という構成です。
これは単なる人手不足ではなく、技術承継の危機を意味します。熟練職人の引退により、工事品質を維持することが難しくなるケースも増えています。また、若手が地域に定着しない要因として、賃金格差や労働環境の問題が挙げられます。
茅野市は自然豊かで住環境に恵まれた地域ですが、建設業界における働く魅力の再構築が求められています。
2-3. 経営事項審査(経審)での減点リスク
近年、建設業者にとって経審(経営事項審査)の重要性はさらに増しています。
特に、自己資本比率の低下や債務超過は評点の大幅ダウンにつながり、公共工事の入札資格そのものを失う可能性があります。
今回の法改正により、特定建設業許可を取得するための財務基準が明確化されることで、今後はより一層、財務体質の健全性が審査で問われる時代になります。
このような流れの中で、「経理や財務は専門家任せ」という経営姿勢から脱却し、自社で財務を理解・管理する力を養うことが求められています。
2-4. 地域特有のチャンス
一方で、茅野市には他地域にない強みもあります。
移住促進事業による住宅需要の増加、空き家改修や地域再生事業、防災・減災関連のインフラ整備など、地域密着企業だからこそ受注できる仕事が増えています。
国の「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」により、令和7年度(2025年度)まで約15兆円規模の公共事業が集中的に実施されています。
茅野市でも、この国の方針に基づき「建設産業振興ビジョン」を策定し、橋梁の長寿命化、上下水道の耐震化、住宅の耐震化など、防災・減災関連の公共事業を計画的に推進しています。
長野県建設部の令和7年度予算でも、補助公共事業費が前年度比112.4%(約79億円増)と大幅に増額されており、県土の強靭化や地域の防災力向上に力を入れています。
これらの公共工事を確実に受注していくためには、財務基盤の強化が不可欠です。
第3章:今すぐ確認!あなたの会社の財務状況チェックリスト
3-1. 30秒でできる自社診断
ここまでで、2025年の建設業法改正の内容と、茅野市の建設業界が置かれている現実を見てきました。
では、あなたの会社はどの程度影響を受けるのでしょうか?
ここでは、たった30秒で自社の現状を把握できるチェックリストを用意しました。
【ステップ1】現在の許可区分を確認する
まずは、自社の許可状況を確認しましょう。
□ 一般建設業許可
□ 特定建設業許可
□ 許可なし(軽微な工事のみ)
一般許可のままでも営業は可能ですが、下請発注額が改正後の基準である5,000万円を超える場合、特定建設業許可が必要になります。特に元請として複数の下請を使う現場では、許可区分の見直しが必要です。
【ステップ2】下請発注額を確認する
次に、直近3年間の下請発注金額を振り返りましょう。
□ 最高額:_____万円
□ 今後、5,000万円を超える案件の予定:有 / 無
特定建設業許可が必要になるラインは、税込金額で5,000万円です。
「税抜で4,600万円だから大丈夫」と思っていたら、消費税を含めると5,060万円になり違反になる、というケースもあります。細かな金額管理が求められます。
【ステップ3】財務状況を確認する
建設業法改正において最も注目すべきは、財務基盤の健全性です。
以下の4つの数値を、最新の決算書で確認してください。
□ 資本金:_____万円(目標:2,000万円以上)
□ 純資産:_____万円(目標:4,000万円以上)
□ 流動比率:___%(目標:75%以上)
□ 欠損額:資本金の__%(目標:20%以下)
もしこの数値のうち1つでも基準を下回っている場合、特定建設業許可の取得や経審で不利になる可能性があります。また、「純資産」と「流動比率」は金融機関も重視するポイントの一つです。
3-2. 診断結果別の緊急度
診断結果に応じて、取るべき行動の優先度が変わります。
以下の3段階で、自社の緊急度を確認してみましょう。
🔴 緊急度【高】
- 一般許可で、下請発注額が4,800万円以上の実績がある
- 純資産が4,000万円未満、または流動比率が70%未満
この場合は、即行動が必要です。
特定建設業許可が必要となる可能性が高く、現状のままでは発注や入札に支障をきたす恐れがあります。財務改善策を含め、早めに専門家に相談しましょう。
🟡 緊急度【中】
- 下請発注額が3,500万円〜4,500万円の範囲にある
- 流動比率が75%を下回っている
まだ余裕があるように見えても、油断は禁物です。
今後、大型案件を受けた際に基準を超えるリスクがあるため、財務の見える化と体質強化を早めに始めるのが得策です。
🟢 緊急度【低】
- すでに特定建設業許可を取得済み
- または下請発注が常に3,000万円未満
現時点で大きな影響はありませんが、改正に伴う書類様式の変更や経審指標の見直しには注意が必要です。毎年の決算時に財務指標を確認し、維持・改善を継続しましょう。
この章のチェックリストを使えば、あなたの会社が「改正対応を急ぐべきか」「様子見で良いか」が明確になります。
次の章では、具体的に茅野市の建設会社が今すぐ着手すべき5つの対策ステップを紹介します。
第4章:よくある質問と誤解を解消
Q1. 改正後も一般建設業許可だけでいい場合は?
はい、下請発注額が常に5,000万円(税込)未満であれば、一般建設業許可のままで問題ありません。
ただし注意すべきは「税込金額」で判断される点です。税抜4,600万円でも、消費税を含めれば5,060万円となり、特定許可が必要なケースに該当する可能性があります。
また、今後の事業拡大を見据えるなら、特定建設業許可の取得を視野に入れておくことをおすすめします。特定許可を取得することで、公共工事や大型案件への参入チャンスが広がり、企業の信用力も高まります。
Q2. 茅野市内だけの工事なら影響はない?
いいえ、発注元の所在地に関係なく、下請代金が基準を超えれば法改正の対象となります。
たとえ茅野市内での施工でも、請負金額が5,000万円を超える場合は特定建設業許可が必要です。
つまり、「地域限定だから大丈夫」という油断は禁物です。法令遵守の観点からも、どの工事が該当するかを契約前にしっかり確認しておくことが大切です。
Q3. 施工体制台帳って必ず作らないとダメ?
特定建設業者が下請代金5,000万円(税込)以上の工事を発注する場合、施工体制台帳の作成義務があります。
施工体制台帳は、元請としての管理責任を果たすための重要な書類です。
下請業者の選定・契約内容・安全衛生体制などを明示することで、現場の透明性を確保し、法令違反や労務トラブルを防ぎます。
作成を怠ると、監督処分や営業停止などの行政指導を受けるおそれがあります。
また、工事規模に関わらず、台帳の正確な管理が「信頼される元請」への第一歩となると私は考えています。
Q4. いつまでに対応すればいい?
改正内容は、令和7年(2025年)2月1日以降に締結する契約から適用されています。
次の章では、第1章から第2章の内容をまとめます。
第5章:まとめ
2025年の法改正は「経営体質を問う時代」の始まり
2025年2月1日に施行された建設業法改正は、単なる「金額基準の見直し」ではありません。特定建設業許可が必要となる下請代金額が5,000万円(税込)へと引き上げられ、元請企業にはより高い財務健全性と管理能力が求められます。
茅野市の建設業界では、経審点数の低下や入札除外といった現実的なリスクが表面化しており、「財務を理解し、数字で語れる経営」への転換が急務です。
本記事で紹介したチェックリストを使えば、自社の現状を30秒で確認できます。資本金・純資産・流動比率の3点を把握し、不足があれば改善計画を立てることが重要です。
また、特定許可の取得や施工体制台帳の作成など、法令遵守の意識を高めることで、公共工事や大型案件への道も開かれます。
2025年の改正は、地域建設業にとって「淘汰の波」ではなく「再成長のチャンス」です。今こそ、財務を整え、次の10年を見据えた経営基盤を築くときです。